同NPOが現在掲げる活動の柱は、@市民参加あるいは市民協働の推進・支援A芝生化を中心とする緑化・環境づくりB出前講座やフォーラムを通じたまちづくりのための専門知識や機材などの資源提供C公共事業・サービスに関する情報提供や公共施設の有効活用促進 ― の大きく4項目に分けられる。

 そのうち、近年の活動を特徴づける一つが芝生化への取り組みだ。

 前述のように、当初は市民参加によるまちづくりを支援する狙いとして、必要な知識をフォーラムやセミナー、あるいは出前講座といった形で発信・提供することから試行錯誤がなされた。ただ、「ITステーション『市民と建設』」の活動が深化するにつれ、活動の中核は市民参加による街づくりから市民協働の考え方へと段階的に発展しつつあった。そうしたプロセスを通じ、よりコミュニティに密着した事業として、学校の校庭や幼稚園の園庭を中心とする芝生化に着手。子供たちを含む地域社会を巻き込みながら、芝生の苗づくりから植え付け、維持管理、さらにそれらの活用とリンクしたイベントなどコミュニティの交流支援に力を入れてきた。

 具体的には、NPO法人グリーンスポーツ鳥取が進める「鳥取方式」という、比較的安価な芝生を利用し、地域および一般市民が自ら一連の作業を担う低コストの芝生化手法を数年前から実践。着実に同NPOの重要な役割として位置づけられるに至っている。

 「(そのように自らの活動の裾野が広がりを見せる中で)どうも(それまでの『ITステーション』や『市民と建設』といった)名前がちょっと合わなくなってきました」

 そこで「ITステーション『市民と建設』」は2010年6月、「シビルまちづくりステーション」という名称に改められた。花村氏は、「土木工学(Civil Engineering)」と、街づくりの主役となるべき「市民」を意味する形容詞に共通の「シビル(Civil)」を冠し、皆が集まって街づくりに取り組む場を目指そうという、新名称に込められた意図を説明する。
 「私がもともと情報企業にいたこともあり、(ITステーション『市民と建設』を発足した)当初は、情報化の色彩を強く打ち出し、同時に情報そのもの(の収集あるいは発信)に注目しました」

 公共事業費縮減の大きな流れに加え、とくにバブル崩壊後は公共事業を「無駄」あるいは「悪者」と位置づける論調が浸透。自分たちは社会に役立つことをしているつもりで土木・建設プロジェクトに長年携わってきただけに、複雑な思いが募る反面、従来指向してきた国土づくりの考え方が果たして本当に正しかったのか、改めて見つめ直す契機ともなった。

 そのうえで、一般の国民が当該プロジェクトに対して必要か否か判断するための材料となる情報を専門家の立場から提供していく、という役割を着想。それを基本に、市民参加による街づくりにつなげようとの考え方が描かれた。

 花村氏は、1994年から6年間にわたって社長(2000年以降は相談役)を務めた渇。河技術情報を2002年に退社。それを受けて自らの構想を実現すべく、冒頭で触れたNPOの活動をスタートさせている。

 つまり、かつてのように国が大きな予算をかけて事業を行っていくことは財政的に難しい。そのような時代にあっては、市民参加により自分たちの街をつくっていくという、今日では当たり前な発想へのシフトが求められた。そこで、そうしたプロセスでの支援機能が同NPOのターゲットに位置づけられた。

 有効に使われる構造物、あるいは、市民が納得できる形のものを公共事業ではつくっていくべき。そのような観点から、同NPOは例えば、市民から親しみを持たれ、大切にされている橋梁を公募し、関東・中部・近畿の地域ごとに「橋百選」として選出。併せて、「高齢者・障害を持つ人々が選んだ、やさしく親しみのある公共施設30選」を、施設利用者の受け止め方や問題点に関する調査を基にまとめている。

 また、土木・建設分野を中心とする他のNPOや外部のエンジニアらを交え、市民参加による合意形成の研究会を組織化。それとは別に、土木・建築・環境に関わるエンジニア、街づくりの専門家、街づくりに興味のある市民や学生らを対象とするフォーラムも開催している。後者では、「市民参加による国土づくり・まちづくり」をキーワードに<パートナーシップ><防災><市民協働>といったテーマを順次設定。「シビルNPO連絡会議」の組織化(2008年)以降は、他の複数NPO法人あるいは同連絡会議と共催する形のシビルフォーラムに衣替え。土木・建設分野に関わるエンジニアおよびNPOの果たすべき役割を探る試みがなされてきた。

 実は、NPOや一般市民が相互に情報交換する出会いの広場という位置づけで第3回シビルフォーラムを2011年4月に開催する計画だった。ところが、東日本大震災(同年3月11日)の発生を受けてこれを延期。当面は他の活動に力を注ぐ体制が取られている。
街づくりへの市民参加を支援
 市民参加による国土づくり・街づくり、およびそこでのIT(情報技術)活用の推進・支援をミッションに掲げ、NPO(Nonprofit Organization)「ITステーション『市民と建設』」が組織されたのは2002年。翌2003年11月には、内閣府よりNPO法人(特定非営利活動法人)の認証を取得。その後、自らの活動において市民参加から市民協働へとウェートが移るのを背景に、2010年6月、「シビルまちづくりステーション」に改称している。

NPO法人 シビルまちづくりステーション 理事長
(シビルNPO連絡会議 代表) 花村 義久
 その一方で、同NPO法人理事長の花村義久氏らは他の土木・建設系NPOなどとの連携に注力。そうした成果の一端として、「シビルNPO連絡会議」が2008年に組織化。加えて、近年は(公社)土木学会においても建設系NPO中間支援組織の設立に向け、率先して取り組む。

 これらのアプローチのベースには、公共事業をめぐる環境の変化と、それに対し土木・建設分野に関わる社会貢献を担うNPOとして、活動の活性化に向け自らの専門性を活かしつつ新たな機能の創出を迫られてきた実情がある。

Exploring New Trends: Information-oriented Strategy and Technologies in Civil Engineering, Construction, Transportation and Environment

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市民参加から市民協働へ
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建設系NPO連携の流れ
専門家の技術や知見を結集、新たな社会的機能の展開へ
By 池野隆(Takashi IKENO)
(掲載 2/12/2012)
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