■コミュニティ道路から自転車中心の交通研究へ
 「シミュレータの利点である、現場では出来ないような条件を(設定して)見せることが可能で、さらにそれらをいろいろ細かくコントロールできるという特徴に対し、非常に期待しています」

徳島大学大学院 ソシオテク
ノサイエンス研究部(工学部
建設工学科都市デザイン研
究室)教授

山中 英生
 徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部(工学部建設工学科都市デザイン研究室)教授の山中英生氏は、自転車利用者に焦点を当てた交通安全や交通計画の研究で知られる。そうした取り組みの過程では、先進の情報技術(IT)を活用しながら、さまざまなシミュレーションや分析を行うシステムの開発・利用を進めてきた。

 VR(Virtual Reality)技術を応用するシミュレーションが期待される代表的な機能の一つに、仮想空間の中でより現実に近い環境を体感できるということがある。一方、シミュレータの利用により、実際には試すことが出来ないような危険な実験、次々とシーンを変えるような実験、あるいは見せる時間をコントロールするような実験も容易に可能になる。

 同氏は自らの研究の性質上、シミュレータでとりわけリアルに可視化するというよりも、むしろシミュレータを用いた実験で見せたいものを被験者がちゃんと確認できるかどうかという視点にウェートを置く。たとえば、「街路空間に設置される各種サインがどの程度の大きさであれば見えるか」あるいは「どういう色であれば分かりやすいか」といった実験では、現実感に富んだ再現の有用性もさることながら、情報をコントロールしつつ行うシミュレーションへの対応がより重要になると語る。

Exploring New Trends: Information-oriented Strategy and Technologies in Civil Engineering, Construction, Transportation and Environment

 山中氏の初期の研究対象は、コミュニティ道路の交通安全に関するものだった。

 具体的には、歩行者や自転車などの安全性や快適性を考慮し、それらの活動を妨げない程度に住宅街の自動車交通を抑制する交通計画を作成している。そのために、まず交通流を計算し、エリア内における自動車の速度抑制を狙いとして、ハンプ(hump:道路上に設置されるかまぼこ型の障害物)やクランク(crank:直角の狭いカーブが連続する道路形状)などの道路施設をどのように配置すれば最適か、といった検討を行った。

 そうしたアプローチを重ねるうち、車との出会い頭の衝突のような自転車事故が、とくに小さな交差点で数多く発生している実態が浮かび上がった。

 そこで、これら小さな交差点での安全性を高める研究へと展開。「交差点で自転車はどのような場合に止まるのか」あるいは「自転車はなぜ止まらないのか」といった、自転車そのものに関する分野に、自身の取り組みは次第に推移してきたという。

 そのような中、国土交通省(当時、建設省)が自転車活用によるまちづくりを進める一環として、1998年度および1999年度に全国の19市町を自転車利用の促進・環境整備に取り組むモデル都市に指定。自転車施策先進都市に対する重点的な支援が実施された。

 その頃から同氏らは、安全な自転車利用を阻む原因として道路のつくり方の問題に注目。歩道の中で自転車と歩行者が危険な状態になる条件、あるいは自転車の減速を促す舗装法などの研究を行っている。

研究室で開発したプローブバイシクル。そのハンドルや荷台部分にはセンサーやGPS、ビデオなどの各種機器を装着し、自転車走行中のさまざまな情報を計測。UC-win/RoadベースのVR空間とリンクして、高度かつ多様なシミュレーションや実験に対応する。 (画像は、徳島大学大学院都市デザイン研究室提供)
 一方、こうした研究を進めていくには自転車の挙動を把握する必要があったことから、同氏らは10年以上にわたり、並行して、プローブバイシクル(probe bicycle)の開発・活用を続けている。これは、自転車に加速度センサーをはじめとする各種センサー、GPS、ビデオなどを装着。自転車走行中のさまざまな速度・加速度情報、位置情報、ハンドル・ブレーキ操作の状態などを正確に測り、自転車利用環境の比較・評価に繋げようというもの。

 近年はこれを基に、歩道での歩行者と自転車による衝突の可能性を探るため、歩行者と自転車が混在する交通流の状態を計測するシステムを開発している。

 そのほか、ITS(高度道路交通システム)関連の分野では、車の速度と位置を測るセンサーを利用し、小さな交差点で一時停止しそうにない車のドライバーに警告するシステム、さらにその存在を自転車側に知らせる装置を開発。後者については、プローブバイシクルを使い、自転車利用者に対して実際に効果があるか探る実験も行っている。

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視認性考慮した中速モード向け情報伝達技術の研究をリード
VR技術活用の自転車シミュレータを導入、広がる実験の可能性
By 池野隆(Takashi IKENO)
(掲載 4/27/2012)
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