建設業のための情報通信技術のトレンド ― 過去、現在、そして今後
Trends in Information and Communication Technologies for Construction: Past, Present, and Future


 併せて同氏は、ICT利用の市場トレンドへと話を展開するのに先駆け、ロジャーズ(E. Rogers)によるイノベーションの普及曲線(innovation adoption curve)の考え方に触れる。

 これは、時間の経過とともに革新者(innovators)から始まり、初期の採用者(early adopters)、初期の追随者(early majority)、慎重な追随者(late majority)を経て最終的に遅い採用者(laggards)へと新技術の普及が伝播するプロセスをベル・カーブ(bell curve:正規分布曲線)により表現。そこからは、市場において新技術の利用が始まる割合や累積採用者数(cumulative adoption)の変化を見ることも出来る。そのため、こうしたアプローチがさまざまな技術のトレンドや技術採用の割合を把握する有効な手法として用いられてきた、と解説する。


2D CADベースのトレンド

 2D CADにおいて実際に辿った採用のトレンドは、3D CADあるいはBIMの普及プロセスを考える上で有用な比較モデルをもたらす。

 そうした観点から、フローズ教授はまず、ニーリー(D. Neeley)が提唱した建築家やエンジニアによる2D CADの技術採用曲線を示す。そこには、当初少なかった2D CADの利用が1982年から1997年頃までの15年ほどの間にほぼ業界全体へと着実に広がってきた状況が表現される。

 一方、CADの市場導入に当たっては、それに先駆け長期にわたる関連技術の開発が付随する。

 同氏はまず、2D CADに関する技術開発の歴史の一端として、米マサチューセッツ工科大学(MIT)などにより初期のコンピュータグラフィックス(CG)システムの取り組みが始まった1950年代初頭に遡る。次いで、一般的に最初のインタラクティブなCADシステムとされるSketchpadの開発、ICES(Integrated Civil Engineering System:土木工学汎用システム)やCOGOなど初期の重要なエンジニアリング解析ソフトウェアの開発(いずれも1960年代初頭、MIT)、1960年代終わり以降の商用CADプロバイダーの出現や各種CADソフトのリリースへと話を展開。さらに、こうした技術開発は市場導入のかなり以前から始まり、その後も長く継続されるもの、と説く。

 その他のBIMに先行する現象(precursors)として、同氏はデータモデリング技術の一つ、オブジェクト指向データモデル(object-oriented data models)の動向を挙げる。今日では一般的になっているデータモデリングも、1960年頃から行われ始め、本当に普及してきたのは1980年代後半になってから。これは、コンピュータプログラミングやシミュレーション、データベース、人工知能(Artificial Intelligence)など多様なIT分野でオブジェクト指向のアプローチがそれらの複雑性(complexity)やソフトウェアの再利用(software reuse)を扱うのに非常に適していたことが背景にあるとする。

 BIMへと導くもう一つのカギになるトレンドとして同氏が注目するのは、データ交換標準だ。その重要性については既に1960年頃から、初期のCADシステムやエンジニアリング解析システムにおいて認識されていた。それが、1979年頃に異種CADシステム間でデータ交換する際の国際標準を目指しスタートした2D CAD向け交換標準のIGES(Initial Graphics Exchange Specification)、1984年頃にオートデスクから始まったDXF(Drawing Exchange Format)、1999年から日本で開発が着手(2000年にCADデータ交換標準開発コンソーシアム(SCADEC)により2D CADデータ交換のための国際標準規約に則った物理フォーマットとして策定)されたSXF(Scadec data eXchange Format)など、データ標準が国際的な取り組みの主題になってきた、と振り返る。


BIM技術と標準化のトレンド

 BIMに先行するこれらのトレンドを踏まえ、フローズ教授は前述のニーリーによるCAD採用曲線と、やはりニーリーが推定するBIM技術の採用曲線とを対比。2000年代初頭に市場採用の始まったBIMが、2D CADの場合よりも短期間に高い採用率を達成してきている、と述べる。

 次いで、それらBIMおよび2D CADの採用曲線と、BIMに導く関連技術の歴史をリンク。1970年代初め、米スタンフォード大学や英ケンブリッジ大学の研究室などでソリッドモデリング(solid modeling)に関する初期の技術開発がスタート。1980年代半ば以降にはシンプルな3次元形状に対応する3D CAD技術の利用が動き出したほか、グラフィソフトのArchiCADをはじめとする商用BIMソフトウェアが出現。1990年代後半から2000年代前半にかけては、複数のCAD会社がBIMのような機能(BIM-like capabilities)を有するソフトウェアをリリース。そのような中でRevitがオートデスクの傘下に入った2002年頃から、それまで各社でBIM的なコンセプトを意図しつつもそれぞれ独自の名称を冠していたのが、「BIM」という用語に統一されるとともに、その普及が進んできた、と流れを解説する。

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